道路交通法の改正で睡眠時無呼吸症による交通事故の罰則の厳罰化
道路交通法が一部改正され、睡眠時無呼吸症による交通事故の罰則がこれまでよりも厳しくなりました。
そんな中で、先日神奈川中央交通の路線バスが乗用車に追突し7人が死傷する事故が発生しました。
しかもバスの運転手は、睡眠時無呼吸症と診断されており、通院治療中だったとのこと。
このドライバーは原因の死傷事故が起き、過失運転致死傷の疑いで逮捕されました。
逮捕の路線バス運転手、無呼吸症候群…7人死傷
横浜市で神奈川中央交通の路線バスが乗用車に追突し、7人が死傷した事故で、同社は31日、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)の疑いで神奈川県警に逮捕されたバス運転手の平敬文容疑者(50)が昨年以降、睡眠時無呼吸症候群(SAS)と高血圧の診断を受け、いずれも通院治療中だったと発表した。
同社は、平容疑者が医師から就業可能と判断されたため運転業務を続けさせたとしている。
同社によると、平容疑者は昨年6月に受けた精密検査で睡眠時無呼吸症候群と診断され、健康診断でも3回連続で高血圧と診断された。
当初、病気を把握していなかったとしたが、31日は「運転に支障はないと診断されていたため、確認に時間を要した」と説明。
そのうえで「健康診断の結果から、バスを運転する上で問題がなかったという見解は変わりない」とした。
同社によると、平容疑者は昨年以降、睡眠時無呼吸症候群と高血圧の診断を受けたが、就業可能との医師の判断に基づき、治療を受けながら乗務を継続。
始業時の点呼で眠気を訴えたこともなかったという。
10月28日夜の事故直後、営業所に自分で電話をかけた際は「貧血のような状態で、もうろうとして事故を起こしてしまった」と説明したという。
記事引用:読売新聞ニュース
事故の状況は、バスは10月28日夜、路線バスの運転中に赤信号で止まった車に減速せずに追突し、乗客の高校1年生の男子生徒(16)を死亡させたほか、男女6人に重軽傷を負わせたとのこと。
運転手は、勤続17年のベテランドライバーで、28日は事故の約2時間ほど前に1時間ほど休憩をとっていたとそうです。
必ずしも事故とバス運転手の就労環境が悪かったと言えないけれど、睡眠時無呼吸症候群と診断されながらも運転を継続していたのは事実。
本人も生活が掛かっているし、会社は人材不足を補わなければならないし、運転させるなというのは簡単に言い切れないところです。
とにかく、亡くなった高校生のご冥福を祈るばかりです。
道路交通法と睡眠時無呼吸症候群
平成26年6月に道路交通法が一部改正され、これまでよりも罰則が厳しくなりました。
その中で、睡眠時無呼吸症候群などの重度な睡眠障害と診断されたにも関わらず、治療を行わず交通事故を起すケースが想定されます。
その場合、飲酒運転で交通事故をおこしたときと同様の厳しい罰則が科せられることとなりました。
今回の事件のドライバーが逮捕されたこともその法律の適用ですよね。
また、睡眠障害や睡眠時無呼吸症候群の治療を行わないと、免許交付や更新ができないこともあります。
運転に支障があると思われると医師が診察した場合、患者の情報を警察に届け出ることが可能になりました。
睡眠時無呼吸症候群による事故にも危険運転致死傷罪が適用
その背景として、危険運転致死傷罪に新たに「幻覚や発作を伴う病気の影響により運転に支障が生じる恐れがある状態で運転した場合」が追加されました。
運転に支障が生じる恐れがある病気の記載をみると「重度の眠気の症状を呈する睡眠障害」とあります。
危険運転致死傷罪では、人を負傷させた場合は12年以下の懲役、人を死亡させた場合は15年以下の懲役となります。
この睡眠障害の中に、睡眠時無呼吸症候群も含まれまれるわけです。
その幻覚や発作を伴う病気の影響の内容は、
・統合失調症
・認知症
・てんかん
・無自覚性の低血糖症
・そううつ病
・重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
・脳卒中
・アルコールの中毒者
などとなっています。
睡眠時無呼吸症候群の症状のある人が虚偽申告をすると罰則
道路交通法の改定により、運転免許の取得や更新時に免許の交付や更新を拒否、保留を判断するために、質問票で5項目の内容に答えることが義務付けられました。
もちろん、この質問票は運転免許の取得、更新手続をする全員が対象となります。
質問票の中に、
「過去5年以内において、十分な睡眠時間を取っているにもかかわらず、日中活動している最中に眠り込んでしまった回数が週3回以上となったことがある」
「病気を理由として、医師から、運転免許の取得又は運転を控えるよう助言を受けている」
という項目があり、全ての対象者は「はい・いいえ」で答える義務があります。
もちろん、質問に対して「はい」と回答しても、直ちに運転免許を取り消されるわけではありません。
運転免許の可否は、医師の診断を参考に判断されますので、、睡眠時無呼吸症候群の治療をしっかりおこなっていれば免許は取り消されることはありません。
仮に免許を取り消された場合でも、3年以内に病状が回復すれば、学科試験や技能試験を受けなくても免許は再交付されるようです。
しかし、睡眠時無呼吸症候群により質問票の症状に該当するにも関わらず、虚偽の回答をして免許を取得、更新した場合は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます。
睡眠時無呼吸症の自覚があったのに未治療の場合は免許の一時停止が可能に
都道府県の公安委員会の判断により、眠気の自覚があったにも関わらず診断、治療を受けていない場合は、専門医の診断を待たずに3か月を超えない範囲で免許の交付や更新が保留されます。
睡眠の問題で交通事故をおこした人も同様の措置がとられます。
免許停止になってから慌てて医療機関を探しても、すぐに検査をおこなうことが難しい場合もあります。
また、睡眠時無呼吸の精密検査から診断、治療が始まるまで時間もかかります。
ある程度の期間治療を行って、その効果が現れないと医師も運転許可を出してくれませんよね。
そうなると、しばらくは運転が出来ないことになり、そのために職を失ってしまえば生活に支障をきたすことになります。
医師が診断結果を警察へ任意で届け出ることが出来るようになった
刑法における守秘義務の法律によって、医師は治療において知り得た患者の情報を第三者に漏らすことは禁止されています。
しかし、道路交通法の改定により、睡眠時無呼吸症候群に罹っている運転者を診断した医師は、 必要があれば診断結果を都道府県の公安委員会に届け出ることができるようになりました。
ただし、医師による届出はあくまで任意によるもので、義務化されたわけではありません。
実際、道路交通法の改正以降、警察から睡眠時無呼吸症候群の治療をおこなう医療機関への問い合わせも増加しているようです。
いずれにしましても、無呼吸症候群が原因の交通事故は今回のケースのような大きな事故を引き起す可能性が、極めて高まります。
事故後の罰則はもちろんですが、いびきや無呼吸・低呼吸を自覚する本人や家族の治療の義務が、問われてきます。
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、睡眠に関する専門外来やクリニックで早めに検査し、治療を受けられることをお勧めします。
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